弁護士による問題社員対応
「協調性を欠き、うその報告をする従業員がいる」
「能力の低い管理職を降職させたい」
「従業員が会社の製品を無断で持ち出してネットオークションで売っている疑いがある」
「労働基準署から突然連絡があり、警告を受けた」
「解雇した元従業員から訴えられた」
会社を経営する上で、問題社員への対応は、その規模に関わりなく、いつでも起こり得る問題です。
問題社員への対応としては、配置転換、降職などの人事措置や、解雇などの懲戒処分が考えられます。
もっとも、人事措置や懲戒処分は、無制限に許されるものではなく、措置や処分の合理性、そこに至るまでの経緯、手続の適正などが確保されなければいけません。これが確保されず、違法な措置や処分であるとの認定がされた場合には、労働基準監督署から警告を受けたり、解雇した元従業員から訴えられて、それまでの賃金(バックペイ)の支払いを命じられたりするリスクがあります。
他方で、このようなリスクを恐れるあまり極度に委縮し、問題のある従業員に対して適切な措置や処分が行われていない例もたくさん目にします。
問題のある従業員を放置すると、当該従業員の担当業務に支障を生じるだけでなく、他の従業員の士気の低下や、取引先からの貴社への信用が損なわれる可能性もあります。
問題社員対応で大切なポイントは、次の通り整理できます。
1 就業規則の整備
解雇などの懲戒処分を行うためには、就業規則に懲戒の種別及び事由が定めてあること、及び、当該問題行為が懲戒事由に該当し、懲戒処分を行うことについて、客観的に合理的な理由が存することが必要です。
よって、貴社に就業規則が無い場合には、就業規則の作成を行うことが必要です。
また、就業規則がある場合でも、定められた懲戒処分の内容や、懲戒事由が適切な内容になっているか、確認が必要です。
例えば、違法行為を行った従業員に対する懲戒処分に当たり、「違法行為を行った時」という懲戒事由の定めがあれば直ちに懲戒処分が可能ですが、「会社の金品を盗み横領した時」などと違法行為が特定されていたり、「有罪判決が確定した時」などという定め方になっている場合には、懲戒処分ができない可能性があります。
また、人事措置についても、職位を下げたりする「降職」については原則として使用者の裁量とされていますが、職能資格制度における資格や等級を下げる「降格」については、就業規則による明確な根拠と相当の理由が無ければ許されないものとされています。
そのため、例えば、管理職から平社員に降職させたにもかかわらず、降格についての就業規則の規定がないために、給与を減額できないというような事態も起こり得ます。
このように、就業規則を予め整備しておくことは、問題社員対策を有効に行うために不可欠です。
2 措置や処分に至る経緯とその記録
人事措置や懲戒処分に至る経緯は、処分や措置の合理性の一要素として重視されます。
すなわち、問題のある従業員に対しては、まずは、口頭でも良いので注意や指導を行い、それでも改まらなかった場合には、書面での注意や指導を行います。
そして、問題の内容によっては、社員教育や適性による配置転換などの人事措置を検討する必要があります。
それでも解決しない場合には、懲戒処分を検討しますが、違法行為や会社に多大な損害を与えた場合を除き、通常は戒告や譴責など軽い処分から始め、改まらない場合に、解雇などの重い処分を課すことになります。
このようなプロセスを踏むとともに、後に紛争に発展した場合のために、経緯の正確な記録を行う必要があります。
3 適切な処分の選択
問題社員に対する処分は、重すぎてはいけないのは当然ですが、軽すぎてもいけません。
懲戒処分の目安としては、人事院が公表している「懲戒処分の指針について」(https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html)などが参考になりますが、個別のケースでの判断は容易ではありませんので、弁護士に相談すべきです。
処分が重すぎる場合、懲戒処分が無効と判断される場合があります。
逆に軽すぎる場合には、処分が無効と判断される場合はありませんが、他の従業員に対して、こういうことをしてもこの程度で済むという印象を与えてしまい、企業秩序維持の上で好ましくありません。
また、後の別件についての処分に際して、前例として考慮されることになり、適正な処分を行おうとしても、客観的には適正な処分であるにもかかわらず、貴社においては不公平な処分として無効であるとの判断がされる恐れもあります。
すなわち、適正な処分の選択は、当該処分の有効性はもちろん、貴社の企業秩序維持全体に影響を及ぼす重大な判断といえます。
処分の妥当性について,最も問題になることが多いのは,やはり解雇です。
労働契約法16条は,「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。
仮に解雇が無効と判断された場合には,解雇されなければ得られたであろう賃金を支払う義務が生じたり、被解雇者の職場復帰を命じられたりするおそれがあります。1年前に解雇したにもかかわらず、突然1年分の賃金を一度に請求されるなどということにもなりかねません。
これから解雇を検討する場合も,既に解雇した従業員との間でトラブルが発生した場合も,弁護士に相談のうえ,慎重に対応するべきです。
4 就業規則で定められた手続きの履践
就業規則によっては、懲戒委員会の開催など、懲戒処分を行うための手続きが規定されている場合があります。
その場合には、規則に沿った手続きを履む必要があります。
また、定めがない場合でも、少なくとも、対象者に対する弁明・聴取の機会は設けるべきです。
以上に見てきたとおり、問題社員対応に当たっては、専門知識に基づく慎重な対応が必要です。当事務所では、就業規則の整備、問題社員対応のアドバイス、適切な懲戒処分の判断、社員対応時の同席など、貴社の企業秩序維持をバックアップいたします。

藤本 尊載

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