解雇の種類や会社が解雇できる条件を弁護士が解説
1 解雇とは
解雇とは,「使用者による一方的な労働契約の解約」のことを言います。
ですから,労働者から辞めたいと言ってきた場合や,使用者から申し入れを行ったとしても,話し合いによって退職が決まったような場合は,解雇ではありません。
不用意に「解雇」などと言ってしまうと,別途ご説明する解雇に関する規制を受けることになりかねませんので,注意が必要です。
2 解雇の種類
解雇には,大きく分けて,
- 普通解雇 雇用契約の中途解約としての解雇
- 懲戒解雇 懲戒処分としての解雇
があります。
3 解雇についての規制
解雇や懲戒処分については,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には,権利濫用として無効になります(労働契約法15条,16条)。
労働者側から,解雇無効の主張がなされる場合,上記の「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当とは認められない」などという主張がなされる場合が大半です。
4 普通解雇
普通解雇については,たとえば,就業規則などに次のような解雇事由が定められています。普通解雇については,就業規則等の規定が無くても可能ですが,規程がある場合には,その定めるところによります。
① 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
② 勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。
③ 業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。
④ 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
⑤ 試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格であると認められたとき。
⑥ 懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。
⑦ 事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。
⑧ その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。
解雇無効の主張がなされた場合,上記のような規定に形式的に当てはまるだけではなく,解雇を正当化するだけの,「合理性」「相当性」を使用者側で立証する必要があります。
労働者の収入の道が閉ざされることになる解雇については,我が国の労働法制上,厳格に審理されており,安易な解雇は無効とされる可能性が高いです。
たとえば,①の勤務態度不良や,②の能力不足による解雇の「合理性」「相当性」の判断に当たっては,
当該企業の種類,規模,職務内容,労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か),勤務成績,勤務態度不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか),その回数(1回の過誤か,繰り返すものか),改善の余地があるか,会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたりしたか),他の労働者との取り扱いに不均衡はないかなどが検討されます。
5 懲戒解雇
懲戒解雇については,たとえば,就業規則などに次のような規定が置かれています。
普通解雇と異なり,懲戒解雇については,就業規則等の規定が無ければ行うことはできません。
第●条 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、普通解雇、減給又は出勤停止とすることがある。
① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
② 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、 複数回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事
実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
⑨ 等々・・・・・
懲戒解雇の場合も,普通解雇と同様に,規定に形式的に当てはまるだけではなく,解雇を正当化するだけの,「合理性」「相当性」を使用者側で立証する必要があります。
「合理性」「相当性」は,懲戒解雇が普通解雇よりも労働者に対する不利益が大きいことから,より厳格に判断されます。
6 従業員の解雇を検討する場合の注意点
以上ご説明したとおり,解雇には厳格な規制があり,訴訟などに発展した場合,解雇無効の判断がなされる可能性があります。
そして,解雇無効の判断がなされた場合,解雇を通知してから解雇無効の判断がなされるまでの間の給与を遡って支払う必要があります。長ければ数年分の給与になることもあります。
よって,解雇の検討は,専門家の指導の下,極めて慎重に行う必要があります。
具体的には,
① 解雇の合理性,相当性を裏付ける資料を作成,収集する。
② 当該従業員に対する注意指導,定期面談を実施し,できるだけ合意による退職を目指す。
③ 改善や解雇回避のための,注意指導,定期面談,業務上の配慮等を記録化する。
ことなどが必要になります。
弁護士にご相談いただくことで,解雇に向けた戦略の立案,必要な資料についてのアドバイス,注意指導や面談方法についての助言,面談への立会い,解雇の可否の見極めなどのサービスを受けることができます。
綿密な検討,準備を欠く解雇は極めて危険です。必ず,早い段階で弁護士にご相談ください。

藤本 尊載

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