ハローワークの判断を覆しパワハラの存在が否定された事例
Contents
1 企業概要
流通商社
従業員 約60名
2 事案の概要
退職した従業員から、上司と同僚のハラスメントにより退職を余儀なくされたとして、心療内科の治療費、退職による逸失利益、慰謝料等を請求する訴訟が提起されました。
ハローワークは、従業員によるハラスメントの主張を認め、退職理由を会社が主張する「自己都合」ではなく「ハラスメントを受けたことによる離職(特定受給資格者)」に変更していました。
しかし、裁判所は会社の主張を認め、ハラスメントの存在を否定し、原告の請求を棄却しました。
3 弁護士の対応・所感
本件においては、録音などハラスメントの客観的証拠は提出されておらず、原告側の主な証拠は、原告の証言と、ハローワークがハラスメントの存在を認めたという事情という事案でした。
法律上、ハラスメントの存在は、それを主張する側が立証責任を負うことになっています。
もっとも、裁判所は、録音などの客観的証拠がなくても、労働者の証言のみでハラスメントの存在を認めることがままあり、録音などの証拠がないからといって安心することはできません。
一般に、「裁判までしてハラスメントを訴えている以上、嘘ではないのではないか」という前提で、主張、証言に一貫性があれば、ハラスメントの存在が認められてしまう場合があります。
労働基準監督署やハローワークなど、他の公共機関がハラスメントの存在を認めている場合にはそのことも裁判官の心証に無関係ではありません。
これに対して、企業がハラスメントの存在を否定しても、「否定しているのだから、ハラスメントは無いのではないか」という前提には立ってもらえません。
企業側としては、単に反対の証言を用意するだけではなく、労働者の主張、証言の矛盾、不自然性を、丁寧な検証によりあぶり出し、裁判所にアピールする必要があります。
そして、もう一つ重要なのが、「なぜ、労働者はありもしないハラスメントを訴えて裁判まで起こしているのか」というストーリーを確立し、裁判官に腹落ちさせることです。
個人的には、最後の点が、最も弁護士の力量の違いが出るところだと思っています。
本件では、ハラスメントがあったとされる時期の数年前から、原告である労働者の職場での立場、仕事の出来具合、後から入ってきた同僚との確執、自身の意見が容れられず不満を蓄積させた経緯などを丁寧に主張立証し、裁判官に、「そういう経緯があったなら、ありもしないハラスメントを訴えて裁判まですることもあり得るかもね。」という心証を与えられたものと考えています。
藤本 尊載
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