問題社員に反省文を提出させるとパワハラに当たるのか?
Contents
1 文書を使用した注意指導の有効性
注意しても反抗的な態度をとったり、何度も問題行動を繰り返す社員に対しては、指導書など書面による注意指導を行ったり、反省文の提出を求めることが有効です。
複数の問題がある場合、全て口頭で的確な指導を行うことは難しいですし、注意を受けた側も一度に理解することは難しい場合があります。
また、後に解雇や懲戒処分に至った場合には、その前段階として注意指導を行ったことの証拠になりますし、ハラスメントの主張が行われても、適切な注意指導を行っていたことの証拠にもなります。
反省文についても、具体的な注意指導を受けて、本人がしっかり理解できたのか、反省が深まったのかなどを確認し、今後の指導や処遇に反映するために有効であり、必要に応じて提出させることが有効です。
2 反省文の提出は違法ではないとした裁判例
反省文の提出について違法ではないとした裁判例として、大阪地裁平成19年6月15日判決があります。
【事例】
複数の顧客や仕入れ先から、納期を守らない、不快な言葉遣いをする、言い訳や嘘が多いなどといったクレームが寄せられ、同僚からも同様の評価を受けていた社員Aに対し、会社は、口頭で注意を重ねてきたものの、Aの勤務態度に変化がなかったため、会議室で面談し、相変わらず取引先や同僚からのクレームが多いことを注意するとともに、その場で、Aに問題点を個別に書き出させ、反省文として提出させた。
その内容は、次のようなものであった。
◦納期未回答を二度と起こさない。
◦支給品の納期遅延を二度としない。
◦社内的に次工程に迷惑がかからない様にする。
◦緊急品の即対応をする。
◦相手方に不快感を与える様な言葉使いは二度としない。
◦約束事は必ず守る。
◦目先の納期対応だけではなく、中・長期的な納期も必ず継続フォローを行う。
◦入荷品の処置が遅いのと、受入れ前の商品は絶対に使用しない。
◦二度とあいまいな返事はしない。
◦良く見て伝票と商品を確認し、二度と起こさない。
また、一定期間経過後に改善状況を確認するとともに、クレームごとに問題点とあるべき業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき一つ一つ事実を確認しながら指導を行うなどした。
Aは、これについて、退職強要に向けた嫌がらせであると主張した。
【裁判所の判断】
Aの問題行動の内容からすると、上司が被告に対し厳しく注意し、指導することは当然である。また、被告の自覚を促すために反省文を作成させたことには合理性が認められる。
クレームごとに問題点とあるべき業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき一つ一つ事実を確認しながら指導を行ったことについても、指導の方法が具体的かつ丁寧であり、退職強要に向けた嫌がらせとは評価できない。
これらの理由から、裁判所は反省文の作成は、社会通念上相当な範囲内であり、違法な行為とは認められない。
【コメント】
本件は、文書を使用した注意指導のお手本ともいうべき事案です。
面談によって問題点を具体的に指摘し、それを具体的に文書化させて対象者の理解を深めさせています。
また、それだけで終わりではなく、一定期間経過後に改善状況を確認するとともに、クレームごとに問題点とあるべき業務内容を整理した一覧表を作成し、これに基づき一つ一つ事実を確認しながら指導を行っています。
このような指導を行うことで、対象者は、何が問題なのか、そして、どうすべきなのかを理解することが可能になります。
また、仮に改善が認められず、懲戒処分や解雇を行う場合には、会社として、十分な注意指導や改善のための取り組みを行ったことが証拠として残っています。
3 反省文の提出を違法とした裁判例
もっとも、過去の裁判例のなかには、反省文の提出を求めたことを違法であると評価したものがあります。
(1)名古屋高裁平成19年10月31日判決
【事例】
F課長は、Aに主任としての自覚を促すとして、「主任としての心構え」を記載した文書を提出するよう指示した。
Aは、以前にF課長から注意や指導を受けた点を踏まえた文書を作成し、提出した。
F課長は、この文書を読み、F課長自身が感じたAの仕事上の問題点や主任として注意すべき点などを指摘して、書き直しを命じた。
Aが書き直した文書には、主任として「自分の油、LNG設備に対する知見の低さを自覚して」と、経験不足をことさらに記載させ、あたかも主任として知識が十分ではないかのような文章が加えられた。
また、主任級が管理職ではないにもかかわらず、「自分の業務と各担当の業務、どれが欠けても自分の責任であると意識する」と過大な責任意識を述べる文書が加えられた。
Aは、後にうつ病を患い自殺するに至り、遺族が、「主任としての心構え」の提出を含むF課長によるパワハラが原因であるとして損害賠償請求を行ったもの。
【裁判所の判断】
Aに、実際には管理職ではないにもかかわらず、自分の知識不足を殊更強調する内容の文書を作成させたこと、Aに、主任という役職を超えた過大な責任を自覚させる内容の文書を加えさせたことなどが、Aに対する単なる反省の要求を超え、Aさんに過度な心理的負荷を与える行為に当たる。
【コメント】
知識不足を殊更協調させたり、過大な責任を自覚させるなど、不必要に心理的負荷を与えるような内容への書き直しを命じている点が問題です。
反省文は、それを書く者が自身の思いを記載すべきものであり、会社が本人の意思に反する内容の記載を強制したり、本人が応じたとしても不当な内容の記載をさせることは違法の評価を受けることになります。
(2)東京地裁八王子支部平成2年2月1日判決
【事例】
被告は、原告が有給休暇を取得する際、製缶課事務所の書記に電話連絡したことについて、上司である製造長または作業長に直接連絡すべきであるという理由で注意を行った。原告は、一応被告の指示に従い、その後は上司に直接電話連絡する態度を示し、始末書の提出は行わなかったところ、被告は3日間にもわたり執拗に始末書の作成を求めた。
【裁判所の判断】
裁判所は、これらの行為について、被告の一連の指導に対する原告の誠意の感じられない対応に起因する苛立ちによるものと解釈しつつも、感情に走りすぎた嫌いがあり、従業員に対する指導監督権の行使としては、その裁量の範囲を逸脱し、違法性を帯びるに至ると判断した。
【コメント】
有給休暇取得の手続違反という比較的軽微な問題について、注意指導に対してそれに従う意向を示しているにもかかわらず、執拗に始末書の提出を求めることは、柔軟性を欠き行き過ぎであるとの判断です。あまりに軽微な問題行動に対して、逐一反省文や始末書の提出を求めるとすれば、違法と評価される場合があります。
4 まとめ
問題行動がある社員に対し、始末書や反省文を提出させることは一律に違法と評価されるものではありません。
文書を用いた注意指導が、社員の理解を深め、注意指導の証拠を残す点において有効であることは上記の通りです。
但し、些細な事柄で逐一反省文の提出を求めたり、不当な内容の反省文の提出を強要する場合には違法と評価される場合があります。
問題社員対応において、適切な注意指導は全てのスタートラインです。
当事務所では、問題社員対応パッケージなど、問題社員にお悩みの企業様に様々な支援を行っております。ぜひ、ご相談ください。

藤本 尊載

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