パート・アルバイトのシフトは自由に減らすことができるか?
小売業、飲食業、製造業など、パートやアルバイトを多数雇用している事業者様から、勤務態度が悪かったり、来店客や受注業務が減少したなどの理由により、パート・アルバイト社員のシフトを大幅に削減してもよいかご相談をいただくことがあります。
結論が分かれた二つの裁判例を紹介し、解説いたします。
1. 東京シーエスピー事件(東京地裁平成22年2月2日)
【事案の概要】
警備会社Y社に雇用されていた複数の警備員が、勤務先の駅の警備業務の請負終了によって勤務時間数が減少したことについて、シフト削減は違法であるとし、未払い賃金を請求しました。
雇用契約上、所定の勤務日はあらかじめ勤務日程表で定められるとされているだけで、勤務日の最低保障日数は定められていませんでした。
【裁判所の判断】
雇用契約上、所定の勤務日はあらかじめ勤務日程表で定められており、最低保障日数も定められていない場合、使用者側は賃金(ないし休業手当)支払義務を負わずに自由に勤務時間数の増減をなし得ると判断し、シフトが削減されたことに対する補償は認めませんでした。
2. シルバーハート事件(東京地裁令和2年11月25日)
【事案の概要】
Yは、介護事業などを営むX社の求人に応募し、2014年1月に労働契約を締結しました。
当初、Yは主にC2事業所で勤務していましたが、2016年1月頃から児童デイサービスでの勤務も行うようになりました。2017年2月以降、Yは児童デイサービスのみの勤務となり、不当配転だと考えるようになり、異議を唱えるようになりました。
2017年8月以降、それまで月15日程度であった勤務日数が、8月には5日、9月には1日に減少し、同年10月以降は全くシフトに入らなくなりました。
Yは、X社に対し、シフトの大幅な削減が違法であるなどと主張し、未払い賃金などを請求しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、シフト制で働く労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入の減少に直結するため、合理的な理由なくシフトを大幅に削減した場合には、シフトの決定権限の濫用にあたり違法となりうるとしました。
そして、Yの2017年9月および10月のシフトについて、同年7月までの勤務日数から大幅に削減されたことについて、X社が合理的な理由を具体的に主張できなかったため、シフトの決定権限の濫用とみなされました。
ただし、Yが2017年10月30日の団体交渉で児童デイサービスの半日勤務には応じないと表明したことにより、それ以降のシフトについては、X社の決定権限の濫用とは言えないとしました。
3.まとめ
東京シーエスピー事件では、契約で勤務日や最低保障日数が定められていない場合には、シフトの削減がおこなわれたとしても補償は不要との判示がなされました。
他方、シルバーハート事件では、シフト制勤務の労働者にとって、シフトの大幅な削減は収入に直結するため、合理的な理由がない限り、シフトの決定権限の濫用として違法となりうるとの基準が示され、使用者側が、シフト削減の合理的理由を説明できなかった期間については、シフト削減を違法としています。
そのうえで、過去3か月の平均賃金との差額の支払いが命じられています。
一見矛盾する結論に見えますが、東京シーエスピー事件においてシフトが削減された理由は、担当業務の請負終了や、勤務態度の不良など合理性を有するものでした。
これらの裁判例からは、原則として、契約で勤務日や最低保障日数が定められていない場合には、シフトによる勤務日を削減しても違法ではありませんが、①合理的な理由なく、②シフトを大幅に削減した場合には、違法になる場合があるといえます。
シルバーハート事件では、もともと15日程度であった勤務日数が、15日→5日→1日→0日と削減され、1日の月と、0日の月が違法と評価されています。
シフト制のパート・アルバイトといえども、シフトを極端に削減する場合には、合理的理由を説明できるように準備しておく必要があります。
当事務所では、様々な雇用形態の労務管理に関し、企業に対する助言を行っております。トラブルになる前に、ぜひ、当事務所にご相談ください。
藤本 尊載
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