取適法(中小受託取引適正化法)対策について弁護士が解説【後編】――今すぐ取り組むべき実務対応
前編では、取適法(中小受託取引適正化法)が誕生した経緯と、自社が「委託事業者」「中小受託事業者」のいずれに該当し得るかを判定する基準を、公正取引委員会の基準表とあわせて解説しました。⇒【前編】
後編となる本稿では、主な改正ポイントと違反時のリスクを整理したうえで、企業が今すぐ取り組むべき実務対応を、委託事業者・中小受託事業者それぞれの立場から解説します。
1 主な改正ポイント
取適法における委託事業者の義務は、①発注内容等を明示する義務(法4条)、②書類等を作成・保存する義務(法7条)、③支払期日を定める義務(法3条)、④遅延利息を支払う義務(法6条)の4つに整理されます。
また、禁止事項(法5条)としては、受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しに加え、今回の改正で新設された「協議に応じない一方的な代金決定」を合わせた11項目が定められています。
以下は、これら禁止事項の一覧です。

これらのうち、実務への影響が特に大きいと考えられる改正点として、次の3点を取り上げます。
(1)協議を行わない代金決定の禁止
委託事業者は、中小受託事業者から価格協議の申し出があった場合、これに応じず、または必要な説明や情報提供をせずに一方的に代金額を決定してはなりません。
コスト変動が生じた際に、受託側が求めた事項について協議を無視したり、先延ばしにしたりすることは禁止事項に該当します(法5条2項4号)。
旧・下請法の下では、「買いたたき」として通常の対価に比べ著しく低い価格を定める行為が禁止されていましたが、協議の申し出自体を無視したり、必要な説明をしないまま代金を据え置いたりする行為は、必ずしも明確に禁止されていませんでした。
取適法では、この点を明確化し、価格協議のプロセスそのものを義務付けたことが大きな特徴です。
振込手数料についても、委託事業者が一方的に従前の代金から差し引く形で負担を転嫁することは、買いたたき又は協議に応じない一方的な代金決定の禁止に該当するおそれがあるとされています。
(2)手形払いの原則禁止
代金の支払手段として手形を交付することは禁止されます。
旧・下請法では、支払サイトが60日を超える手形による支払いが禁止されていましたが、取適法ではサイトの長短を問わず手形払い自体が禁止された点が大きな変更です。
電子記録債権やファクタリングを利用する場合も、支払期日(受領から60日以内)までに代金相当額の満額(手数料を含む)を金銭で受領できるものでなければなりません。
振込手数料についても、中小受託事業者に負担させることが禁止されています。
支払期日を過ぎた場合は、年率14.6%の遅延利息を支払う義務が生じ、この遅延利息の対象には、不当な代金減額があった場合の減額分も含まれることとされています。
(3)型・治具等の無償保管禁止の強化
改正により「木型」や「工作物保持具(治具)」等が製造委託の対象物に明示的に追加されました。
量産終了後など、発注を長期間行わないにもかかわらず、保管費用を支払わずに中小受託事業者に無償で保管させることは、不当な経済上の利益の提供要請(法5条2項2号)として違反となるおそれがあります。
委託事業者は、中小受託事業者と協議の上、廃棄・回収するか、保管費用を支払う必要があります。
振興法においても、保管金型の廃棄を含む事業計画・取組が支援の対象例として挙げられており、型・治具等の取扱いの適正化は取適法・振興法を通じた重点課題の一つと位置づけられています。
(4)面的執行の強化
従来、下請法違反の調査・指導・勧告は公正取引委員会と中小企業庁が主に担ってきましたが、取適法では事業を所管する省庁(事業所管省庁)の主務大臣にも指導・助言の権限が付与されました。
これにより、公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁の三者が連携する「面的執行」が強化されています。
また、報復措置の禁止に係る申告先として、公正取引委員会及び中小企業庁長官に加え、事業所管省庁の主務大臣が追加されました。
例えば、国土交通省の「トラック・物流Gメン」に通報した運送事業者が、その後に荷主から取引停止や発注減少といった報復措置を受けた場合、それ自体が本法違反となります。
中小受託事業者が安心して違反行為を申告できる環境を整備することが、この改正の狙いです。
2 違反した場合のリスク
違反に対する法的制裁は、行為の種類によって異なります。
(勧告と公表)
禁止事項(法5条)に違反した場合、公正取引委員会は是正勧告を行い、「事業者名」「違反事実の概要」等をウェブサイト等で公表します。
勧告に従わない場合は、措置命令が行われ、さらにその旨が公表されます。
なお、勧告時点で委託事業者の行為がすでに是正されていた場合であっても、再発防止策等の勧告が行われる点には注意が必要です。
例えば、支払遅延をした委託事業者が勧告前に代金を支払った場合であっても、勧告そのものは行われ得ます。
違反行為は、中小受託事業者との合意の有無や委託事業者の認識の有無にかかわらず違反となるため、「相手が了承していたから問題ない」という抗弁は通用しません。
(罰則:50万円以下の罰金)
発注時の「明示義務(法4条)」や取引記録の「作成・保存義務(法7条)」に違反した場合、または虚偽の報告を行った場合に、行為者個人および法人に対して50万円以下の罰金が科されます。
禁止事項違反そのものへの直接の罰則ではなく、事務的義務の懈怠に対する制裁である点に注意が必要です。
書類の保存期間は、記載または記録した日から2年間と定められています。
(自主申告による勧告回避の可能性)
調査着手前に自ら違反を申し出、かつ「違反の中止」「不利益の回復」などの要件を全て満たす場合には、勧告を行わない運用が示されています。
違反の疑いに気づいた場合には、指摘を受ける前に自主的に是正し、その経緯を記録しておくことが、結果的にリスクを抑えることにつながります。
3 企業が今すぐ取り組むべき実務対応
取適法への対応は、法務部門だけで完結するものではありません。
購買・経理・営業・事業部門が連携して取り組む必要があります。
委託事業者としての義務と、中小受託事業者としての権利は表裏の関係にあるため、自社がどちらの立場に立つ取引かを踏まえて、以下を確認してください。
(委託事業者として発注する場合)
①適用対象の再確認
自社の取引が資本金基準または従業員数基準に該当するかを、前編でご紹介した基準表に照らして改めて精査しましょう。
新規取引を開始する際には、取引の類型(製造委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、運送委託のいずれに該当するか)、相手方の資本金額、従業員数の確認項目を含めたチェックリストを用いて判定することが望ましいでしょう。
判定結果については、判定日、確認方法、確認資料、判定結果、判定者などを記載した記録を作成し、法定の書類保存義務に準じて2年間以上保管しておくことをお勧めします。
②発注書面(法4条書面)の整備
給付内容、代金、支払期日など13項目(一部算定方法を含む)を網羅した書面または電磁的方法による明示体制を構築しましょう。
中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電子メールなどの電磁的方法による明示が可能になった点も踏まえ、書面の電子化を検討する余地があります。
一括決済方式や電子記録債権を利用する場合には、手形払いが禁止されたことに伴い、新たに明示・記録すべき事項が追加されている点にも留意してください。
③価格協議への対応体制の整備
中小受託事業者から価格協議の申し出があった場合に応じる担当者や、協議の記録方法をあらかじめ定めておきましょう。
協議を無視したり先延ばしにしたりする対応は禁止事項に該当します。
協議の記録には、日時・場所、出席者、中小受託事業者からの申入れ内容、提出資料、委託事業者の検討内容・回答、合意事項または継続協議事項、次回協議予定などを詳細に記載し、可能であれば双方で確認・署名することが望ましいとされています。
これらの記録は、公正取引委員会の調査等に備えて、少なくとも2年間は保存しておきましょう。
④書類の作成・2年間保存
取引に関する記録(法7条書面)を作成し、2年間保存する運用を徹底してください。
電磁的記録での保存には、検索機能の確保等の要件があります。
発注書面、給付内容、支払の記録などが対象であり、トラブル発生時に公正取引委員会などが事実関係を確認する際にも使用されます。
⑤支払フローの是正
手形払いを廃止し、受領から60日以内に現金で支払うフローへの移行が必要です。
電子記録債権やファクタリングを利用する場合であっても、手数料を含めた代金相当額の満額を、支払期日までに金銭で受領できる仕組みになっているかを金融機関や決済代行業者に確認しておきましょう。
⑥資産管理の適正化
取引先に保管させている型・治具等の棚卸しを行い、保管費用の支払いまたは廃棄に関する協議を記録に残しましょう。
量産終了後、長期間発注を行っていない型・治具等がないかを定期的に確認し、放置しないことが重要です。
(中小受託事業者として受注する場合)
①自社の規模の把握
自社の資本金額および常時使用する従業員数を整理し、取引先から確認を求められた際に速やかに回答できる体制を整えておきましょう。
誤って少ない従業員数を回答した結果、実態として法の適用対象であるにもかかわらず取適法の保護を受けられない事態を避けるためにも、正確な把握が重要です。
②価格協議への準備
労務費・原材料費等の上昇分を示す資料を整え、価格転嫁の根拠を提示できるようにしておきましょう。
協議の申し出自体は書面や電子メールなど記録に残る方法で行い、委託事業者が協議に応じない場合や必要な説明をしない場合には、その経緯も記録しておくことが、後に相談・申告を行う際の証拠となります。
③支払条件の確認
手形での支払いを求められていないか、電子記録債権等の場合に手数料を含む満額を金銭で受領できるかを点検しましょう。
振込手数料を一方的に差し引かれていないかも確認が必要です。
④型・治具等の取扱いの確認
無償で保管させられている型・治具等がないかを棚卸しし、保管費用の請求や廃棄について委託事業者に協議を申し入れましょう。
長期間発注のない型・治具等を漫然と保管し続けることは、自社のコスト負担につながります。
⑤相談窓口の把握
委託事業者との関係で取適法に違反しているのではと思ったときは、公正取引委員会の相談窓口(フリーダイヤル:0120-060-110、受付時間10:00~17:00、土日祝日・年末年始を除く)を利用できます。
相談した内容が委託事業者に知られることはないとされています。
また、全国2,200か所の商工会議所・商工会と連携した「独占禁止法相談ネットワーク」や、各都道府県に設置されている「取引かけこみ寺」も相談先として活用できます。
事業所管省庁への通報も可能になり、通報を理由とする報復措置は禁止されています。
(両方の立場を併せ持つ企業の留意点)
主要な取引先には委託事業者として発注しつつ、自社も外注先へ発注しているなど、委託事業者と中小受託事業者の両方の立場になり得る企業も少なくありません。
多層請負が常態化している建設業界などでは、誰もが発注者・受注者双方の立場になり得るとも指摘されています。
このような企業では、購買部門による発注管理体制と、営業・経理部門による受注対応体制を分けて整備し、取引ごとにどちらの義務・権利が生じるかを混同しないよう注意することが望まれます。
いずれの立場にあっても、取引相手を対等なビジネスパートナーとして尊重し、コンプライアンス上の禁止事項を遵守する姿勢が求められます。
最後に
取適法は「一度対応が完了したら終わり」という性質の法律ではありません。
取引の実態が適法かどうかは、継続的に問われ続けます。
従業員数の確認や価格協議の記録など、日々の取引の中で積み重ねていく対応が求められる点が、この法律の実務対応の難しさでもあります。
まずは自社の取引が委託事業者・中小受託事業者いずれの立場にあたるのかを整理し、取引慣行を見直すことから始めてください。
発注書の書式や支払条件の見直し、社内への周知――一つひとつ着実に対応を積み上げていくことが、将来のリスクを遠ざけることにつながります。
取適法への対応や、自社の契約・発注フローに法的リスクがないかの点検については、お気軽に当事務所にご相談ください。
石垣紀彦
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