不動産賃貸契約

「あらたに事務所用の物件を賃借するが,特約条項に気になる条項がある。」
「賃料の値上げを求められているが応じなければならないか。」
「建替えのために退去して欲しいと言われているが,応じなければならないか。立ち退き料は請求できるか。」
「退去に当たり,過大な原状回復を求められているが応じなければならないのか。」
「鍵の返却だけではなく原状回復が完了するまでの期間について賃料の倍額の違約金を請求されたが支払わなければならないか。」

事業活動にあたっては,事業のための土地や建物を賃借することがあります。

事業用の賃貸借契約については,居住用マンションなどの賃貸借契約と異なり,契約自由の原則が比較的広く認められます。

また,使用方法も多様であるため,事業用賃貸借特有の問題が生じることがあり,賃貸借契約書がより重要な役割を果たします。

すなわち,民法や借地借家法については,事業用,居住用問わず原則として同様に適用がありますが,消費者保護を目的とする消費者契約法は事業用の賃貸借契約には原則として適用されず,判例法理上も,原状回復についての合意の有効性判断などにおいて,借主保護よりも比較的契約の内容を重視する傾向があります。

よって,事業用の土地や建物を賃借する場合には,提示された契約書にそのままサインするのではなく,内容について十分に吟味する必要があります。

よく問題になる事項として,次のようなものがあります。

原状回復義務の拡大

居住用の物件については,退去時の原状回復義務の範囲は,完全に入居時と同様の状態に戻す義務をいうものではなく,通常損耗については賃借人が回復させる義務は無いものとされています。国土交通省の賃貸住宅の原状回復ガイドラインも,基本的には,賃貸住宅に適用されるものとして制定されています。

事業用の賃貸借についても,特約がなければ,実務上,上記ガイドラインを参考に原状回復の範囲を検討しますが,特約がある場合には,通常損耗についても,借主が原状回復義務を負う場合があります。

すなわち,最高裁平成17年12月16日判決は,賃借建物の通常損耗について賃借人が原状回復義務を負うためには,賃借人が補修費を負担することになる上記損耗の範囲につき,賃貸借契約書自体に具体的に明記されているか,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識して,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であるとしています。

よって,特約によって通常損耗の原状回復義務を負う場合がある一方で,上記基準を満たさない場合には,特約の有効性は認められません。契約時に十分な注意を払うとともに,条項の有効性については,専門家へのご相談をお勧めします。

賃貸借契約解除後の損害金に関する条項

建物の賃貸借契約が解除された後,明渡しが完了するまでの間,居住用の物件については,賃料相当損害金を請求されるのが一般的ですが,事業用の物件については,賃料の倍額の損害金を定める例が良く見られます。

居住用の物件について賃料の倍額の損害金を定めても,消費者契約法9条により無効と判断される可能性が高いですが,事業用の賃貸借契約においては,一般に有効なものとして扱われています。

そのため,何を以て明渡しの完了と評価されるのか,確認をしておく必要があります。一般に,鍵の返却を以て明渡しとし,原状回復はその後に行うことを認める場合と,明渡しまでに原状回復を完了しなければならず、原状回復が完了するまで明渡しが完了したとは認められない場合があります。この点は,契約書の定めによって判断されますので,十分に確認が必要です。

以上のような特殊性がある一方で,賃貸借契約の更新拒絶や中途解約には正当事由が必要であることや,賃料の増減額については,経済事情の変動等の有無が問題となることは,居住用の物件と同様です。

事業用物件の賃借を行うに当たっては,十分に契約書の吟味を行うとともに,貸主と見解の相違が現れたときには,損害の拡大を防止し,正当な権利を実現するため,早めにご相談ください。

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藤本 尊載

玉藻総合法律事務所代表弁護士。企業側の弁護士として多数の顧問先を持つ。労務問題をはじめとした企業の法的トラブルに精通。他士業に向けたセミナー講師も務める。

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