社員が私生活の犯罪で「不起訴」に。会社名も報道されていない場合、解雇は認められるか?

「うちの社員がプライベートで警察に逮捕されたらしい……」

経営者や人事担当者にとって、これほど肝を冷やす瞬間はありません。企業のコンプライアンス意識が厳しく問われる現代、従業員の犯罪行為に対して会社がどう対処すべきかは、企業の社会的信用を大きく左右する重要な課題です。
しかし、いざ処分を検討する段階で、実務上非常に判断に迷うケースがあります。

• 最終的に「不起訴処分」になった
• ニュースでは実名報道されたが、会社名は伏せられている
• 会社の業務とは一切関係のない、完全な私生活上の行為である

「会社に実害が出ていないなら、懲戒解雇にするのは不当解雇と言われるリスクがあるのでは?」と躊躇してしまう経営者の方も多いのではないでしょうか。
今回は、まさにこうした「実務で迷うポイント」が重なりながらも、裁判所が懲戒解雇を【有効】と判断した近時の重要な裁判例をご紹介します。

最新の裁判例:東京地裁令和6年10月25日判決

この裁判は、ある企業の営業社員が、勤務時間外(私生活)に面識のない女性に対する強制わいせつ容疑(現・不同意わいせつ罪)で逮捕された事例です。
社員側は「私生活上の行為であり、業務には無関係だ。解雇は無効である」と主張して会社を訴えました。この事案には、経営者が処分を迷う以下の事情が含まれていました。

【実務担当者が迷うポイント】
1. 結果は「不起訴処分」: 被害者と示談が成立し、刑事罰は受けていない。
2. 会社名は報道されず: 社員の氏名や事件内容は報道されたが、所属企業名は出ていない。
3. 完全な私生活上の行為: 休日の、業務とは全く関係のない場所での犯行。

裁判所が「解雇有効」とした3つの理由

従来の労働裁判では、「私生活上の非違行為」を理由とする解雇は、会社の社会的評価を著しく落としたと言えるような明白な実害(大々的な会社名の報道など)がない限り、無効と判断される傾向が少なからずありました。
しかし、近時の裁判所は企業のコンプライアンス(法令遵守)体制や、犯罪そのものの悪質性を非常に重く見るようになってきています。本判決において、裁判所は以下の点を挙げて懲戒解雇を有効と認めました。

① 犯罪行為自体の悪質性と重大性
裁判所は、面識のない女性を公衆トイレに連れ込んでわいせつな行為に及んだ態様を「極めて悪質であり、重大な犯罪行為である」と一喝しました。刑事処分が不起訴(示談成立)であっても、「悪質な違法行為を行ったという事実」そのものが、労働契約の前提となる信頼関係を根本から破壊したとみなされたのです。

② 企業の行動指針・ミッションとの矛盾
この会社では、日頃から「法を遵守する」という行動指針(ミッションステートメント)を明確に掲げていました。裁判所は、社員の行為が会社の明確な方針に真っ向から反するものである点を重視しました。

③ 会社名が報道されなくても「社会的評価の毀損」はある
ここが実務上最も注目すべきポイントです。会社名が直接報道されていなくても、インターネットやニュースで個人の逮捕が大きく報じられている以上、「そのような重大犯罪を行った人物を雇用し続けていること」自体が、将来的に企業の社会的評価を毀損するリスクをはらんでいると判断されました。

経営者が今すぐ取り組むべき「2つの備え」

今回の判例は、経営者にとって心強い追い風となる判断ですが、「逮捕=即クビにしてOK」と安易に考えるのは禁物です。労働契約法上、懲戒処分を行うためには事前の厳格なプロセスと「根拠」が必要です。
万が一の事態に備え、以下の2点を今一度ご確認ください。

1. 就業規則(懲戒規程)の見直し
懲戒処分を行うためには、就業規則に明確な根拠条項がなければなりません。「刑法その他法規に違反する行為があったとき」といった規定だけでなく、企業の社会的信用を守るための文言が正しく網羅されているか、今一度専門家によるリーガルチェックを受けることをお勧めします。

2. 事実関係の正確な把握と、スピード感を持った対応
社員が逮捕された際、本人の言い分だけでなく、警察の捜査状況や報道の有無、被害者との示談状況などを正確に把握する必要があります。拙速な処分は不当解雇のリスクを生みますが、逆に引き延ばしすぎると企業のガバナンス(企業統治)が問われます。

労務トラブルのご相談は当事務所へ

従業員の私生活上のトラブルや、刑事事件が絡む労務問題は、通常の解雇事由よりもさらに高度な法的判断が求められます。
• 「社員が逮捕されたと連絡があったが、まず何から手をつければいいか分からない」
• 「就業規則の懲戒規定が、法改正や最新の判例に対応できているか不安だ」

当事務所では、企業の経営を守るための労務マネジメントや、就業規則の改定、有事の際の具体的な対応アドバイスまで、企業の立場に寄り添ってトータルでサポートいたします。少しでも不安を感じられたら、トラブルが大きくなる前に、ぜひ一度お気軽にご相談ください。

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藤本 尊載

玉藻総合法律事務所の代表弁護士。企業(使用者)側の弁護士として多数の顧問先を持つ。労務問題をはじめとした企業の法的トラブルに精通。他士業及び官公庁向けのセミナー・講演も務める。

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