立ち退き・明け渡し
賃料を度々滞納したり、近隣住人に対する迷惑行為を行ったり、企業として信用できない状況にあるなど、何かと問題の多い借主に対しては、事態が深刻化する前に立ち退いてもらうことが不動産を経営上、重要となります。
しかしながら、賃貸物件は生活の基盤であることから、借地借家法や判例法理によって、借主の権利は保護されており、賃料の滞納等があっても、常に立ち退きや明け渡しが認められるわけではありません。
また、我が国の法制度上、自力救済(司法手続きによらず実力を以て権利回復を果たすこと)は禁止されており、オーナーとはいえ、無断で賃貸している物件に立ち入ったり、鍵を交換して借主を閉めだしたりすると、損害賠償を命じられる可能性があります。
ですから、立ち退き、明け渡しを実現するためには、専門家に相談しその指導のもと、慎重に手続きを進める必要があります。
立ち退き・明け渡し手続きの概要は次のとおりです。
1)契約解除の可否の検討
立ち退き、明け渡しを求めるためには、借主との賃貸借契約を解除する必要があります。
賃料の滞納、迷惑行為、信用不安などが、契約書の定める解除事由に該当するかを検討します。この点、契約書に解除事由として記載されていても、判例法理上、無効とされているものもありますので、注意が必要です。
また、賃貸借契約の解除には、信頼関係の破壊が必要とされており、契約書の解除条項に該当するだけでなく、信頼関係が破壊されたと言えるかを検討する必要があります。
例えば、賃料の不払いがあったとしても、その金額や不払い期間、不払いに至った経緯、その間の交渉の内容などにより、信頼関係が破壊されたか否かを判断します。信頼関係破壊の有無の判断にあたっては、裁判例の知識や経験が必要ですので、専門家への相談が必要です。
2)現地調査
契約解除の可否の検討と並行して、物件の現地調査を行うべきです。
郵便受けや電気メーターの状況、洗濯ものの有無、近隣住民からの聞き取りなどにより、借主が現在も居住しているのか、借主とは別の第三者が占拠していないかなどを確認します。
借主と連絡が取れない場合は、勤務先や連帯保証人への連絡、住民票の取得なども検討すべきです。
3)内容証明郵便の送付
賃貸借契約の解除事由が存在すると判断され、借主の居所がわかる場合には、内容証明郵便を送付します。
契約解除の原因や契約書の定め方によっては、まずは、履行の催告を行います。賃料の不払いなどの場合には、原則として相当期間を定めた催告を行い、期間内に支払われない場合には、契約を解除する旨を通知することになります。
もっとも、内容証明郵便は、借主が受け取らずに一定期間を経過した場合には返送されてしまいます。
また、借主の居所がわからない場合には、そもそも、内容証明郵便を送付することができません。
そのような場合にも方策はありますので、弁護士への相談をお勧めします。
4)占有移転禁止の仮処分
賃貸物件の現地確認を行ったところ、借主以外の人物が居住していることが確認できた場合など、その後も居住者が変更される可能性がある場合には、占有移転禁止の仮処分を検討します。
訴訟による判決は、原則として被告として訴えた者にしか及びません。そのため、訴訟を提起して判決を得て、強制執行をしようという段階になって、被告以外の人物に占有が移転していることが判明すると、強制執行を行うことはできず、裁判手続きが無駄になります。
そのような事態を回避するため、占有移転禁止の仮処分を検討する必要があります。占有移転禁止の仮処分が執行されれば、仮処分執行後に占有を承継した第三者に対しても、判決の効力を及ぼすことができ、裁判手続きが無駄になることを避けられます。
5)明渡請求訴訟
借主による任意の明け渡しに応じてもらえない場合は、明け渡し請求訴訟を提起します。
借主が行方不明になっている場合であっても、明け渡し請求訴訟を提起し、訴状等の送達は公示送達手続によることで判決を得ることができます。
滞納賃料や損害賠償の請求など、明渡し以外に請求すべき金銭がある場合には、連帯保証人も被告に加え、併合して訴訟手続きを取ることができます。
6)強制執行
明け渡し請求訴訟で勝訴判決を得ても、借主が退去しない場合には、強制執行手続きを取ることになります。
不動産明け渡しの強制執行の申立てがなされた場合、執行官は通常、借主に対して1ヶ月間の期限を定めて明け渡しの催告を行い、それでも借主が退去しない場合には、強制的に明け渡しを実施する旨を通知します。上記期限までに借主が退去すれば、強制執行の申立を取り下げることになります。
明け渡さない場合には、執行官によって強制的に明け渡しが実施されます。
不動産の立ち退き、明け渡しを実現するためには、上記のようなプロセスを履む必要があり、その間には様々な問題が生じるのが通常です。
実際のところ、弁護士ではない一般の不動産オーナーの方が、ご自身で手続きを行うことは容易ではありません。
不動産の立ち退き、明渡し問題は、解決に時間がかかればかかるだけ、賃料相当額の損害が発生し続ける危険性があり、早期解決が不可欠です。
お早めに弁護士にご相談ください。
藤本 尊載
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