債権回収の注意点

「債権者に催促をしているが、最近は電話にも出ない。」
「毎月請求書を送り続けているが、全く返答もなく、放置したままになっている。」

債権の回収は、債務者がなかなか支払いに応じなかったり、そればかりか、話し合いにすら応じてくれないということもありますので、非常に難しい問題です。回収ができない期間が長くなると、財政状況が圧迫され、経営リスクを背負ってしまうことにもなりかねません。
また、債権には法律上、時効があり、債権の種類に応じて、法律で定められた期間を過ぎてしまい、債務者が時効を援用すると、支払義務がなくなってしまいます。
そのため、誠意のない相手方の不払いを放置してはならず、時効期間について正確に理解したうえで、適切な対応を行う必要があります。

消滅時効の期間については、令和2年4月1日の改正民法の施行により変更になりますが、新民法の時効期間が適用されるのは、令和2年4月1日以降に締結された契約に基づく債権です。よって、債権の発生が令和2年4月1日以降であったとしても、原因となる契約締結がそれ以前である場合には、旧民法の時効期間が適用されます(民法附則(平成29年6月2日法律第44号)第10条第4項)。
当面、旧民法による消滅時効が適用される債権と、新民法による消滅時効が適用される債権が併存することになりますので、注意が必要です。

新民法では、旧民法に定められていた、一定の業種についての短期消滅時効の特例が廃止され、商法においても商事消滅時効の特例が廃止されます。
そして、債権の消滅時効の起算点及び期間について、「権利を行使することができる時」から10年という旧法の原則的な消滅時効期間は維持したうえで、「権利を行使することができることを知った時」から5年という主観的起算点からの消滅時効期間を追加し、そのいずれかが経過した場合には、時効により債権が消滅するとしています。

■消滅時効の時効期間 例
(令和2年3月31日までに発生した債権)

債権の種類 時効期間
・小切手債権 6ヶ月
・旅館・宿泊費、飲食料
・運送費
・大工、俳優、歌手、プロ野球選手の賃金
など
1年
・弁護士、公証人の職務に関する債権
・売掛金債権
・労働者の賃金(給料)
2年
・約束手形の振出人、為替手形の引受人の債権
・不法行為に基づく損害賠償請求権
3年
・一般の商事債権
・家賃・地代、利息、マンションの管理費など
5年
・一般の民事債権
・確定判決、和解調書、調停調書によって確定した債権
10年
・債権または所有権以外の財産権 20年

(令和2年4月1日以降に発生した債権)

債権の種類 時効期間
・小切手債権 6ヶ月
・労働者の賃金(給料) 2年
・約束手形の振出人、為替手形の引受人の債権
・不法行為に基づく損害賠償請求権(人の生命又は身体の侵害によるものを除く)
3年
・一般の民事債権(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を除く) 権利を行使できることを知った時から5年
権利を行使することができるときから
10年
・人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権 権利を行使できることを知った時から5年
権利を行使することができるときから20年
・確定判決、和解調書、調停調書によって確定した債権 10年
・債権または所有権以外の財産権 20年

一度時効期間が経過し、債務者がそれを主張すると、債権者は債務者に請求ができなくなってしまうので、注意が必要です。

大切な債権を時効によって失わないように日頃からの管理は重要ですし、法的に必要な手続を踏めば、時効を中断(更新)させることも可能です。時効の中断(更新)により、時効期間が再度一から進行することになりますので、安心して債権の回収を行うことが可能となります。

弁護士に依頼をしていただくことで、面倒な債務者との交渉や内容証明郵便などの書面の作成を代理で行うことが可能です。また、回収の可否判断や催促のポイントなど、債権回収に詳しい弁護士に相談することで着実に手続を進めることが可能となりますので、お気軽にご相談下さい。

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藤本 尊載

玉藻総合法律事務所代表弁護士。企業側の弁護士として多数の顧問先を持つ。労務問題をはじめとした企業の法的トラブルに精通。他士業に向けたセミナー講師も務める。

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