残業代計算正しくできていますか?

所定労働時間を超えて従業員を働かせた場合、残業代を支払う必要があります。

残業代の計算方法については、各社決まった方法で計算をされていると思いますが、その計算方法は、労働基準法違反ではありませんか?

近時、運送業界その他において、残業代計算方法の不備を突いた未払い残業代請求が多発しており、当事務所でも使用者様から多数のご相談をいただいております。

今回は、残業代の計算方法を詳しく解説いたします。

1 時間外、休日、深夜労働に対する割増賃金

労働基準法37条は、使用者に対し、労働者に時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた場合、延長した労働時間数、休日の労働時間数、深夜に労働させた時間数分の割増賃金の支払いを義務付けています。

2 割増率

支払いを要する割増賃金の金額は、通常の労働時間の賃金に、

時間外労働 1.25(1ヶ月について60時間を超えた場合は1.5)

休日労働  1.35

深夜(午後10時から午前5時)労働  0.25

を乗じた金額です。

3 通常の労働時間の賃金

(1)割増率を乗じる基礎となる通常の労働時間の賃金の計算方法については、労働基準法施行規則19条に定めがあります。

 時間によって定められた賃金については、その金額

 日によって定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によって所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額

 週によって定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によって所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額

 月によって定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によって所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額

 月、週以外の一定の期間によって定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額

 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額

 労働者の受ける賃金が以上の二以上の賃金よりなる場合には、その部分についてそれぞれ算定した金額の合計額

(2)また、以上の計算にあたり、割増賃金の基礎から除外される賃金としては、労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条に次の通り定められています。

1 家族手当

2 通勤手当

3 別居手当

4 子女教育手当

5 住宅手当

6 臨時に支払われた賃金

7 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金

労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条は限定列挙であるとされており、これに該当しない賃金は、割増賃金の基礎から除外できないものとされています。

(3)ただし、そもそも、「賃金」ではないものも除外される点は注意が必要です。

「賃金」とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者にすべてのもの」(労働基準法11条)とされています。

そして、「任意的恩恵的給付」「福利厚生給付」「企業設備・業務費」は「賃金」に当たらないといわれています。

「任意的恩恵的給付」とは、それを支給するか否か、いかなる基準で支給するかがもっぱら使用者の裁量に委ねられている給付をいいます。労働協約、就業規則などによって支給条件が明確にされており、それに従って使用者が支給義務を負うものは賃金と取り扱われます。

典型的には、結婚祝い金、病気見舞金など。退職金や賞与についても、支給についての規定などがなく、使用者の裁量によって行われる限り、賃金には当たりません。

「福利厚生給付」とは、使用者が労働者の福利厚生のために支給する利益又は費用です。但し、賃金規定等で制度化されていると賃金として扱われます。

典型的には、生活資金・教育資金などの資金貸付、労働者の福利の増進のための定期的な金銭給付、労働者の資産形成のための金銭給付など。家族手当や住宅手当も、本来的には福利厚生給付ですが、賃金規定等で制度化されると賃金に当たります。そのために、上記にてわざわざ除外されています。

「企業設備・業務費」とは、企業が業務遂行のために負担する企業施設や業務費です。たとえば、作業服、作業用品代、出張旅費、社用交際費、器具損料などがこれに当たります。

但し、通勤手当については、本来労働者が負担すべきものであり事務費でなく、賃金規定等でその支給基準が定められている場合には賃金に当たります。

 

4 具体例

例えば、月給制で、

基本給 15万円

役職手当 3万円

歩合給 3万円

通勤手当(就業規則に定めあり実費支給) 1万円

臨時ボーナス(就業規則に定めなし) 1万円

 

所定休日 土、日、祝、夏季休暇、冬季休暇

勤務時間 9時から18時(休憩1時間)

 

当月の所定労働日数は20日

10時間残業(内2時間が深夜労働)

 

というケースで、残業代の計算をしてみましょう。

 

(1)まず、その年の暦日(365日か366日)から、所定休日である土、日、祝、夏季休暇、冬季休暇などの日数を控除し、1年間の所定労働日数を算出します。

カレンダーから所定休日の日数を計算して、125日だとすると、当年(1年365日とする)の所定労働日数は240日になります。

それに、1日の所定労働時間数8時間を乗じると、1年間の所定労働時間数1、920時間が算出できます。

さらに、それを12で除すると、1月平均所定労働時間数160時間が算出できます。

 

(365日-125日)×8時間÷12=160時間

 

(2)次に、通常の労働時間の賃金の算定を行いますが、月給制と歩合制が併用されていますので、それぞれについて別々に算出する必要があります。

【月給制】

月ごとに支給されているのは、歩合給を除く、基本給、役職手当、通勤手当及び臨時ボーナスです。

このうち、基本給及び役職手当については、労働の対償として支払われるものですから「賃金」に当たり、通常の労働時間の賃金算定基礎になります。

また、通勤手当については、就業規則で制度化されているものについては「賃金」に当たりますが、除外賃金とされているため、通常の労働時間の賃金算定基礎になりません。

また、ここが注意を要するポイントですが、就業規則に定めがなく、社長の裁量で支給されることがある臨時ボーナスについては、「任意的恩恵的給付」として「賃金」に当たりませんので、除外賃金としての定めがなくても、通常の労働時間の賃金算定基礎になりません。

以上を前提とすると、通常の労働時間の賃金算定基礎は、

基本給 15万円

役職手当 3万円

合計  18万円

です。

これを、1ヶ月平均の所定労働時間である160で除すると、1時間あたりの基礎賃金は1、125円となります。

 

18万円÷160時間=1、125円

 

【歩合制】

歩合給は、支給される額を当該賃金支払期間の総労働時間数で除した額が、基礎賃金となります。ただし、後にも説明するとおり、歩合給については、時間外労働に対する通常賃金部分はすでに基礎となる賃金総額に含まれているため、1.25ではなく、0.25を乗じた額が割増賃金額になります。

以上を前提とすると、通常の労働時間の賃金算定基礎は、

当月の歩合給3万円÷当月の総労働時間170時間(所定労働日数20日×8時間+残業時間10時間)≒176円

 

(3)以上より、10時間残業(内2時間深夜)を行った月の割増賃金は、、、

【月給制】

1、125円×1.25×10時間≒14、063円

【歩合制】

176円×0.25×10時間=440円

【深夜】

(1、125円+176円)×0.25×2時間≒651円

【合計】

15、154円

 

月給制部分については、各支給が定額であれば1年間は基礎となる1時間当たりの賃金は変わりませんので、それほど煩雑な計算ではありません。

しかし、歩合給については、歩合給総額も総労働時間も毎月異なりますので、その都度計算が必要となり、計算が煩雑です。

もっとも、上記計算額は、労働基準法が定める割増賃金の下限額です。

よって、上記計算方法による算出額を下回らない限り、企業ごとにより簡便な算出方法を採用することは可能です。例えば、定額残業手当などです。

ただし、判例により形成されているルールに則った制度設計をしなければ、割増賃金として支払った手当を、割増賃金として認めてもらえないばかりか、1ヶ月あたりの通常の賃金の算定基礎に加えられてしまうケースが多数発生しています。

従業員のために労働基準法を上回る残業代を支払っていながら、まさに恩を仇で返される事態になります。

まずは、自社の残業代が正しく行われているか確認する必要があります。また、貴社における勤務実態に応じて、合法的な賃金体系を設計しましょう。

ぜひ、当事務所にご相談ください。

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藤本 尊載

藤本 尊載

玉藻総合法律事務所代表弁護士。企業側の弁護士として多数の顧問先を持つ。労務問題をはじめとした企業の法的トラブルに精通。他士業に向けたセミナー講師も務める。

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