【判例解説】ホープネット事件(東京地裁令和5年判決)から学ぶ復職判断の実務対応
はじめに
メンタルヘルス不調により休職していた従業員が主治医の「復職可能」という診断書を提出したにもかかわらず、企業側が産業医の「復職困難」とする判断を重視し、休職期間満了による自然退職処分の有効性が認められた——これが、いわゆるホープネット事件(東京地裁令和5年4月10日判決)です。
本件判決は、私傷病による休職者の復職可否をめぐり、主治医と産業医の意見が対立した場合に企業がどのように判断すべきかという実務上の重要論点について、明確な指針を示した点に大きな意義があります。
1. 事件の概要
本件は、双極性感情障害で休職していた営業職の従業員が、主治医から「復職可能」の診断書を提出して復職を求めたものの、企業は産業医の「復職困難」との意見を重視し、復職を認めず、そのまま休職期間満了による自然退職とした事案です。
企業実務では、休職期間満了時の復職判断において主治医の「復職可」を形式的に尊重してしまうケースも少なくありません。しかし、本件判決は、企業が復職可否を決める際には「合理的な判断プロセス」が不可欠であることを強く示しています。
2. 裁判所が示した合理的な判断プロセス
裁判所は、復職が認められるための就業規則上の要件として、「休職前の職務を通常程度に遂行できる健康状態に回復していること」が必要であり、その立証責任は労働者にあると明確にしました。
産業医の判断が合理的と認められた理由として、以下の点が重視されました。
・生活リズムの不安定さ
・多剤服用という健康状態の不安定要素
・産業医面談日の無断不参加
・外出訓練や日常生活能力の回復が不十分
これらの事情を総合し、産業医の「復職困難」とする評価は、主治医の診断書よりも職務適応性を具体的に検討したものとして高く評価されたのです。
3. 主治医との連携を図った企業側の適切な手続
本件で注目すべき点は、企業が従業員の同意を得たうえで主治医に対して医療情報の提供を依頼するなど、主治医との連携を図る適切な手続を踏んでいたことです。
企業が治療経過や日常生活の様子について主治医から情報収集を行うことで、より実態に基づいた判断が可能になります。このようなデューデリジェンス(適切な注意義務)を尽くした企業の対応が、自然退職処分の有効性を裏付けたといえます。
4. 実務への示唆
本件判決は、主治医は治療の成果を評価する立場、産業医は職場での労務遂行能力を評価する立場という構造的な違いを明確に示した点に意義があります。
企業の人事労務担当者は、以下のプロセスを踏んで多角的に判断する必要があります。
・産業医による業務適性の評価
・回復状況の具体性の確認
・主治医との連携・情報収集
5. まとめ
ホープネット事件は、メンタルヘルス不調者の復職判断において、企業が合理的な根拠と適切な手続を伴うことで、公正で透明性のある休職制度の運用が可能となることを示した重要な裁判例です。
企業としては、本判決を契機に、復職判定の制度設計・運用プロセスを見直し、産業医との連携や従業員とのコミュニケーションの在り方を再確認することが求められます。
メンタルヘルスに問題を抱える従業員への対処にお悩みの企業様は、是非、当事務所にご相談ください。
藤本 尊載
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