ローパフォーマー社員とは?能力不足の社員を放置するリスクや対応方法を弁護士が解説
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1 ローパフォーマー社員とは?
今回取り上げるローパフォーマー社員とは、主に、会社が求めるレベルの仕事をこなせない能力不足の社員のことを指します。
このような社員の存在は、周りの社員にとって大きな負担となります。また、いつまでも業績の上がらない社員を雇用し続けることは会社組織の経済的な重荷です。
そこで、今回は、そのようなローパフォーマー社員を放置するリスクや対応方法について解説いたします。
2 ローパフォーマー社員のタイプ
ローパフォーマー社員には、主なタイプとして以下のようなものがあります。
①改善意欲がなく、同じようなミスを繰り返してしまう
②仕事が遅く、期限が守れない
③顧客からのクレームが多い
④周囲の目を盗んで、さぼって仕事をしない
⑤他の社員の平均的な業績に全く及ばない
3 ローパフォーマー社員を放置するリスク
(1)周りの士気が下がる
ローパフォーマー社員を放置することは、会社にとって大きなリスクです。
その社員が繰り返す仕事上のミスや、できなかった仕事は、他の社員によってカバーせざるをえません。
そのようなアンバランスな関係性は、不満の温床となり、社員同士の人間関係を悪化させるうえ、真面目に働いている社員のモチベーション低下を引き起こします。
(2)取引先と問題が生じる
当然ながら、同じようなミスを繰り返すことや、時間や仕事の期限を守れないことは、対外的な取引においても問題になります。
ローパフォーマー社員の存在は、大事な取引先からの信頼をも揺るがしかねません。
(3)生産性が低下する
ローパフォーマー社員本人の生産性が低いことに加え、ローパフォーマー社員の能力不足をカバーするため、他の社員も時間や労力を割かねばならず、各自の仕事に専念できない状況が生まれます。
また、上で述べたように、真面目な社員のモチベーションも低下するため、組織全体の生産性が大きく低下してしまいます。
(4)仕事を与えないことがパワハラに
ローパフォーマー社員の扱いに苦慮した挙句、放置して意図的に仕事を与えないという対応をとってしまうと、そのような対応はパワーハラスメントにあたる、として訴えられる危険性もあります。
4 企業側でまずやるべきローパフォーマー社員への対応
(1)十分な指導・配置転換
ローパフォーマー社員を放置しないため、まずは本人と面談して、問題点を指摘し、改善を求める必要があります。
面談はスケジュールを決めて定期的に行うことが重要です。前回の面談で設定した目標が達成できているかどうか、改善の有無・程度を確認しましょう。
また、何度も面談指導を実施しているにもかかわらず改善が見られないという場合であっても、それだけでは不十分です。
配置転換が可能な環境がある場合は、配置転換を行い、それまでとは異なる業務に対する適性を試してみる必要があります。
(2)退職勧奨
十分な指導や配置転換を行っても、全く改善が見られない場合、その社員に退職してもらわざるをえないこともあるでしょう。
ただ、そのような場合でも、いきなり解雇するのではなく、まずは退職勧奨を行うべきです。
退職勧奨により、合意退職に至れば、その後紛争に発展することはほとんどありません。紛争リスクを考慮すれば、多少の譲歩をしてでも退職勧奨によって合意退職を実現させたほうが会社側のメリットは大きいでしょう。
(3)解雇
本人が頑なに退職勧奨に応じなかった場合、解雇するしか選択肢がないという場合もあります。
ただし、解雇となれば紛争リスクは格段に高くなりますし、裁判所は能力不足を理由とする解雇を容易には認めません。
解雇が有効と認められるだけの過程をこれまでに経てきたか、それが十分でない場合には、これからどのようなプロセスを経るべきか、慎重な検討を要します。
5 ローパフォーマー社員の解雇に関する裁判例
(1)裁判所の傾向
繰り返しとなりますが、裁判所は、能力不足による解雇を容易に認めません。
多くの裁判例は、単に能力が不足しているだけでは足りず、その能力不足の程度が著しいこと、加えて、向上・改善の見込みが無いことを判断基準としています。
ただ、会社が育てていくことが前提である新卒採用と、即戦力を期待された中途採用では、後者の方が能力不足による解雇が若干緩やかに認められる傾向があります。
以下、いくつかの裁判例をご紹介します。
(2)セガ・エンタープライゼス事件(東京地裁平成11年10月15日)
新卒入社後、様々な部署に異動させたものの、人事考課が毎回下位10%であった社員を解雇したことについて、裁判所は、その業務遂行が平均的な水準を下回っていたことを認めつつも,就業規則における「労働能率が劣り、向上の見込みがない」という解雇理由の規定は,「著しく労働能率が劣り,向上の見込みがない」場合に解雇ができる規定であるとの限定を加え、人事考課が絶対評価ではなく相対評価であったことや、体系的な教育や指導を実施すれば、能力向上を図る余地があったとして、当該解雇を無効としました。
(3)森下仁丹事件(大阪地裁平成14年3月22日)
成績が芳しくなく、ミスを繰り返すなどした社員を、技能発達の見込みが無いとして解雇したことについて、裁判所は、数年前までの成績は標準的であり、会社そのものの営業自体が不振であったため本人の成績不振を一概に非難することはできないことや、コンピューターを使用して一人で大量の伝票処理を行うという慣れない業務でのミスであり、他にミスなくできる業務もあったこと、人事考課が著しく悪い者に対しては降格という手段もあることなどから、いまだ解雇に値するほど技能発達の見込みがないとはいえないとして、当該解雇を無効としました。
(4)日水コン事件(東京地裁平成15年12月22日)
即戦力として中途採用されながら、長期にわたって成績不良で、かつ恒常的な人間関係のトラブルを抱えていた社員を解雇したことについて、裁判所は、能力等が単に期待したレベルに達しないというのではなく、著しく劣っていて職務遂行に支障が生じており、それは簡単に矯正することもできない本人の性向に起因していると認められること、会社の指導教育による改善の余地がないことも推認されるとして、当該解雇を有効としました。
6 ローパフォーマー社員を解雇する際の注意点
(1)指導が十分されているか
裁判例からも分かるように、ローパフォーマー社員の解雇が有効と認められるためのハードルは高いといえます。
そもそも、解雇は、一方的に雇用契約を終了させるものであるため紛争に発展しやすく、解雇された側から解雇無効を訴えられる可能性を覚悟しなければなりません。
そして、裁判所は、解雇について、会社側があらゆる手を尽くした後の最終手段と考えています。
そのため、ローパフォーマー社員を解雇するまでに、会社が本人に対し、粘り強く指導等を行って改善のチャンスを与えたか否か、が極めて重要になるのです。
もし、十分な指導を行わず解雇してしまうと、その解雇は無効とされ、莫大な金銭の支払い(バックペイ)を命じられてしまう可能性が高いでしょう。
(2)指導をしても改善されなかったことが証拠として残っているか
また、単にローパフォーマー社員を指導したというだけでは不十分です。
指導を繰り返し行っても、問題点が改善されなかったという事実に加えて、これら事実が証拠によって証明できることが重要です。
そこで、面談内容も含め、ローパフォーマー社員とのやり取りは、全て書面として残しておく必要があります。
(3)配置転換が行われているか
業務内容と本人の能力や性格がマッチしていないことが、ローパフォーマンスの原因という場合も考えられます。
裁判所は、業務内容が変われば、パフォーマンスを発揮できる可能性もあるという考え方に立ちます。社内で配置転換が可能なのであれば、配置転換を行い、その社員にチャンスを与えなければなりません。
7 当事務所ができること
(1)問題社員への対応のご相談
ローパフォーマー社員の存在にお悩みの場合は、まずご相談ください。
当該社員に対して、どのように指導していけば良いのか、どのような指導記録を残しておくべきか等、法的観点から、先々の対応まで見据えた具体的なアドバイスをさせていただきます。
(2)退職勧奨・解雇に関するご相談
ローパフォーマー社員に退職してもらいたいが、どのように退職勧奨を進めればいいのか分からない。また、解雇したいが後で訴えられないか心配、という場合もご相談ください。
解雇が有効と認められるかどうかは、労働問題に対する専門的な知識と経験が必要です。紛争リスクを踏まえた退職勧奨や解雇の進め方をアドバイスさせていただきます。
また、本人と面談する際に、弁護士が同席することも可能です。
(3)紛争への対応
解雇後に解雇無効を主張された場合など、紛争に発展した後の示談交渉や労働審判等への対応についてもご相談ください。
会社にとって最善の結論が得られるよう、全力で対応いたします。
(4)対応メニュー
当事務所では、豊富な問題社員対応の経験をもとに、問題社員対応についての法律相談、書面作成、問題社員対応バックアッププラン、退職勧奨・解雇処分サポート、就業規則改訂サポート、労働審判・訴訟対応など、多彩なメニューをご用意しております。
問題社員対応にお悩みの経営者の方は、まずは法律相談にお越しください。貴社のお悩みをお聞きし、必要なサービスをご提供いたします。
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石垣紀彦
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